いまや私たちの生活に欠かせないものとなったYouTubeやSNS。
なかでもYouTubeでは、好きなときに無料で見られるとあって、人気を集めています。
今回紹介する『ブレイクニュース』は、YouTubeチャンネルで社会問題を取り上げる女性が主役の小説です。
YouTubeやSNSにひそむ闇に関心がある方は、ぜひ読んでみてください。
・YouTubeやSNSに馴染み深い方
・社会問題やニュースに関心がある人
・ジャーナリストの世界に興味がある人
YouTubeやSNSは、いまや私たちの生活に欠かせないツールです。
今回はYouTube製作の裏側から見える、現代社会の闇がテーマになっている小説を紹介します。
SNSの世界に潜む闇が描かれているため、読むと背筋が凍るかもしれません。
ジャーナリズムのあり方についても、深く考えさせられる小説です。
年間300冊以上の本を読む読書愛好家です。小説、サブカル、ビジネス書、実用書、マンガ、雑誌などあらゆる本を読みます。本の魅力を伝えたくてブログをはじめました。本好きが高じて、図書館に長年勤務していました。現在の職業は複数ジャンルで活動するWebライターです。
『ブレイクニュース』の概要
タイトル | ブレイクニュース |
著者 | 薬丸 岳(やくまる がく) |
出版社 | 集英社 |
初版発行 | 2021年6月30日 |
価格 | 1,800円+税 |
『ブレイクニュース』の著者
『ブレイクニュース』の著者、薬丸 岳さん はこんな方です。
薬丸 岳さんは1969年兵庫県明石市生まれで、2005年に小説家としてデビューしました。
父親が転勤族だったため幼少期に全国を転々とし、小学5年生からは東京在住です。
『薬丸 岳(やくまる がく)』はペンネームであり、本名は同じ漢字ですが違う読み方で『薬丸 岳(やくまる たけし)』さんなです。
幼い頃から映画が好きで、高校生の頃には俳優を志していました。
その後ミュージカル俳優やバーテンダーなどの職業を経たのちに、シナリオを学ぶために『日本脚本家連盟ライターズスクール』へ入学。
脚本家としては成果が出ませんでしたが、漫画原作者として活動を開始しました。
漫画原作者としての活動中に高野和明さんの『13階段』を読んで衝撃を受け、小説家を目指します。
これまでに出版された作品は、少年法など重めのテーマを扱った小説が多いです。
テレビドラマ化や映画化された作品もあります。
「悪党」や「友罪」などの小説は映像化されたため、知っている方も多いのではないでしょうか。
『ブレイクニュース』あらすじ(ネタバレなし)
YouTubeで人気のニュース系チャンネル『ブレイクニュース』を運営するのは、謎の女性、野依 美鈴。
『ブレイクニュース』は児童虐待や、パパ活、8050問題、ヘイトスピーチなどさまざまな社会問題を取り上げて高視聴率を狙うYouTubeチャンネルです。
重い題材のニュースを扱いながらも、視聴回数は一千万回を超えるほど注目されています。
運営者でありながらキャスターも務める野依美鈴の、魅力的な容姿が人気の理由です。
社会問題のなかでもギリギリのラインを攻めるブレイクニュースには、様々な取材依頼が舞い込みます。
「なぜ、野依美鈴はこのチャンネルを開設したのか?」
「彼女が本当に伝えたいこととは、一体何なのか?」
そして、野依美鈴の正体とは……?気になる謎を残しながら物語は進みます。
『ブレイクニュース』の主要な登場人物
野依 美鈴 | 人気YouTubeチャンネル『野依美鈴のブレイクニュース』キャスター兼運営者。 年齢、経歴ともに謎に包まれている自称ジャーナリスト。 紺色のパンツスーツがトレードマークで、中に着ている白シャツは いつも胸元が開いている。 色気と美貌が特徴だが、いったい何者なのか……? |
真柄 新次郎 | 週刊誌『週刊現実』の記者。 野依 美鈴とブレイクニュースの謎に迫ろうとするが、 なかなかうまくいかない。 ブレイクニュースメンバーと取材現場でかち合うことが多く、 野依 美鈴のことをあまりよく思っていない。 なんとかして彼女の正体を暴きたいと考えている。 |
樋口 | ブレイクニュースのスタッフ。 カメラマンと動画編集を担当している。 もともとは引きこもりの若者だが、野依美鈴にSNSでスカウトされ ブレイクニュースを手伝うことになった。 趣味のパラパラ漫画をSNSに投稿していたのが 野依 美鈴の目にとまり映像担当に抜擢された。 |
『ブレイクニュース』を読んだ感想
この小説では児童虐待や医療ミス、冤罪事件など、ニュースで取り上げられるような事件がテーマとなっています。
パパ活や中年の引きこもり問題(8050問題)なども取り上げられています。
これらの社会問題に、主人公の野依美鈴が正面から切り込む様子にハラハラさせられました。
もし実際にこんな動画があったら炎上するでしょう。
野依美鈴がYouTubeを通じてダークヒーローとなり、トラブルを解消する様子には爽快さも感じます。
取り上げられているテーマが社会問題であるため、読後感はけして明るいとは言えません。
しかし実際に世の中で問題になっているテーマであるため、リアルさを感じられます。
私個人として、気になった話は2つありました。
1つめは、苦しい家庭環境ながら東京で大学生活を送る女子大生が主役の物語です。
奨学金をもらいながらも困窮し、苦渋の選択としてパパ活をする女性の状況に心を削られるように感じました。
この女子大生のほかにも、奨学金の返済に苦しむ女性が登場します。
奨学金の返済に苦しむ若者が多いというニュースも耳にするなか、まさに社会に対する問題提起だと感じました。
もうひとつ、心をえぐられるように感じたのはネットを介して在宅ワークを行う女性の話です。
同様にネットで仕事を探す人が増えている昨今、まさに他人事ではないと感じます。
目をそむけずに読むのは、なかなか苦しい部分もありました。
Webを介して仕事をすること自体に問題はないが、SNSの利用によって心が消耗する可能性はあるかもしれません。
実際に、SNSで知り合ったもの同士が事件を起こすケースが増えているのではないでしょうか。
私たちの日常に深く入り込んでいるSNSだからこそ、使用方法には気を付けていかなくてはならないと強く感じました。
『ブレイクニュース』の中に出てくる名言・名文
人に刃を向ける者は、いつか自分にもその刃が返ってくることになると……
ブレイクニュース 297ページ
SNSで友人の情報を拡散してしまった女性が、自らの過ちをつぐなうために取ったある行動。
それを評した野依美鈴の言葉です。
「SNSであれ、リアル社会であれ、自分が誰かに対して取った行動はすべて最後には自分に返ってくる」ということを表現しています。
単純なようですが、深い言葉なのではないでしょうか。
私たちは皆、誰かに放った言葉や行いがすべて自分に戻ってくることを覚悟しなくてはならない、と感じました。
『ブレイクニュース』のまとめ
『ブレイクニュース』は社会問題について、詳しく知りたい人にもおすすめの小説です。
主人公、野依美鈴の危険を顧みない取材は、まさに現代版ハードボイルドと言えるでしょう。
平和すぎる日常を退屈に感じている方にこそ、読んでほしい小説です。