京極夏彦さんの「百鬼夜行シリーズ」の最新作『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』が2023年9月に発売されました!
前作『邪魅の雫(じゃみのしずく)』から17年、待ちに待った最新作です!
『邪魅の雫』巻末に、次回予定作品として『鵼の碑』の名前がひっそりと掲載されてから早17年……
もう新刊は出ないものだと思って諦めていたのですが……2023年晩夏、急に出版情報が解禁されました!!
今回は、17年の時を超えて手元にやってきた激熱(激厚)な小説を、できる限りネタバレなしでレビューします!!
京極夏彦さんの新刊が分厚いってSNSで話題になっていたね。
『鵼の碑』は単行本とノベルス、電子書籍の3種類が同時に発売されたんだけど、単行本の厚さが話題になっていたね。
私も単行本を購入して計ったら、厚さが7㎝、重さが1.2㎏だったよ。手に持って読んだらやっぱり重かったよ。持ち運びたい人には、ノベルス版か電子書籍のほうががおすすめかな。
単行本の厚さを伝えたくて、写真を撮ってみたよ↓
百鬼夜行シリーズは以前に映画化されていたから、名前は聞いたことがあるけど、読んだことはないなぁ。
いきなり鵼の碑から読み始めても大丈夫?
私の個人的な感想だけど、『鵼の碑』はシリーズのなかで1番読みやすかったよ。
百鬼夜行シリーズの登場人物がまんべんなく紹介されているから、この本から読み始めても大丈夫かも!
鵼の碑を読んで気に入ったら、シリーズの最初から通読するのがおすすめ。より一層、世界観を楽しめるよ!
とにかくハマれる小説に出会いたい人
新しい読書体験をしたい人
正統派ミステリーに飽きた人
百鬼夜行シリーズと京極夏彦作品のファン
この記事を書いた人
読書ブロガー Webライター 文香 | 小説・ビジネス書・実用書などのジャンルが好きな読書愛好家です。 本の魅力を伝えたくて書籍情報ブログを始めました。 本に囲まれて過ごしたくて、以前は図書館で働いていました。 現在はWebライターとして、Web3・金融・ビジネス・BtoB・不動産ジャンルの記事を執筆しています。 詳しいプロフィールはこちら |
『鵼の碑』のデータ・概要
『鵼の碑』のデータを紹介するよ。
タイトル | 鵼の碑(ぬえのいしぶみ) |
著者 | 京極 夏彦(きょうごく なつひこ) |
出版社 | 講談社 |
初版発行 | 2023年9月14日 |
ページ数 | ・単行本 1280ページ ・ノベルス 832ページ ・電子書籍 1135ページ |
価格 | ・単行本 3,960円(税込み) ・ノベルス 2,420円(税込み) ・電子書籍 2,299円(税込み) |
『鵼の碑』5つの特徴
『鵼の碑』の特徴をチャートで表してみたよ。
(※注意 次の評価は個人の感想に基づいたものです)
- 秀逸な謎解きとラストシーン
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本作は1200ページ以上の大長編(単行本の場合)ですが、いくつかの謎が同時に進みます。
物語の終盤で多くの伏線が回収され、謎がひとつずつ解けていくストーリー展開です。
絡まった糸がほどけるように収束し、ラストシーンにつながります。百鬼夜行シリーズにはめずらしく、派手な憑き物落としではなく静かなラストシーン。
しみじみとした余韻を感じられます。 - 登場人物が個性豊か
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百鬼夜行シリーズといえば、個性豊かな登場人物が魅力です。
おなじみのメンバーが勢ぞろいし、ユーモアあふれるやり取りで楽しませてくれます。17年ぶりの本作でも登場人物たちが生き生きと描かれていて、久しぶりに同級生と再会したような気分に。
懐かしさと嬉しさを感じました。鵼の碑にはメインキャラクターが勢ぞろいしているため、百鬼夜行シリーズ入門書としてもおすすめです。
- 少しの謎と余韻が残る
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最後に京極堂の憑き物落としによって謎が次々に解き明かされていくのですが、ほんの少しだけ謎が残されます。
しかしこの部分は、あえて謎のままにして余韻を残しているのかもしれないと感じました。残された謎が、巻頭の戯曲とリンクして不思議な味わいを生み出しているためです。
そのおかげで、希望を感じられる結末につながっているのかもしれません。 - 読み応え抜群なボリューム感
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なんと言っても、最大の特徴はボリューム感。
百鬼夜行シリーズはどの本も分厚く、ファンからは「鈍器」「辞書」などと揶揄されていますが、本書もかなりのボリュームです。そのため読み応えは抜群!読了に時間がかかりそうですが、読みやすく最後まで飽きることはないでしょう。読了後には達成感と満足感を味わえます。
- 物語への没入感
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序盤から矢継ぎ早に謎が投げかけられ、物語の世界に入り込めます。
まるで、自分も小説のなかにいるような没入感を体験できるかもしれません。私の場合は、読了するまでの期間は寝ても覚めても『鵼の碑』一色でした。
じつは『鵼の碑』発売前に資格試験を控えていたのですが、発売日が試験後で本当によかったです。
試験前に読み始めていたら、きっと勉強がおろそかになっていたことでしょう……。 - 次作予定の『幽谷響の家(やまびこのいえ)』が楽しみ
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裏表紙のカバー帯に、次回作予定として『幽谷響の家(やまびこのいえ)』の記載があります。
発売時期は記載されていませんが、いつかは刊行されるでしょう。さすがに『鵼の碑』のように17年後にはならないと思いますが……
幽谷響(やまびこ)というフレーズから、山に関連する物語なのかな?と想像が膨らみます。
もしかしたら、鵼の碑にも関連するお話でしょうか?首を長くして次作を待ちたいと思います。
『鵼の碑』の作者 京極夏彦さんの経歴
『鵼の碑』の作者、
京極夏彦さんの経歴を紹介します。
京極夏彦さんの経歴 | |
---|---|
1963年3月26日 | 北海道にて出生 |
北海道の俱知安高等学校を卒業 東京の桑沢デザイン研究所に進学 | |
デザイン事務所に勤務 | |
広告代理店に勤務 20代にして制作部副部長に就任する | |
友人たちとデザイン事務所を設立 | |
デザイナーとして働きながら、仕事の合間に『姑獲鳥の夏』を書き上げる 講談社に原稿を送る | |
1994年 | 『姑獲鳥の夏』でデビュー |
1995年 | 1月に『魍魎の匣』が発売される 5月に『狂骨の夢』が発売される |
1995年 | 『鉄鼠の檻』で第9回山本周五郎賞候補 |
1996年 | 『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞受賞 |
その後も数々の文学賞候補に 受賞作も多数あり 各種ミステリ・ランキングで上位にランクインする |
京極夏彦さんは、所属している事務所「大極宮」のTwitterでも情報発信を行っていますので、お見逃しなく!
(大極宮は、大沢在昌さん、京極夏彦さん、宮部みゆきさんの3人が所属する事務所です)
『鵼の碑』の主要登場人物
百鬼夜行シリーズ常連の登場人物
中禅寺 秋彦 (ちゅうぜんじ あきひこ) | 元教員で、現在は古書店「京極堂」を営む。 仲間内では「京極堂」と呼ばれている。 家業である神社の宮司をしており、陰陽師としても活動している。 数々の難事件で、拝み屋として憑き物落としを行った。 妖怪をはじめ、宗教や民俗学にも造詣が深い。 |
関口 巽 (せきぐち たつみ) | 小説家 世間を騒がせた事件の渦中の人として有名になる。 さまざまな事件に巻き込まれやすい体質。 自嘲気味な性格で自己評価が低い。 人と話すのが苦手で、よく京極堂から叱られている。 |
木場 修太郎 (きば しゅうたろう) | 以前は、本庁刑事部刑事課に所属していた刑事。 現在は警視庁麻布署刑事課に巡査として勤務。実家は石材店である。 戦時中は軍人であり、関口の部下だった。 四角い顔が特徴で、榎木津から「下駄」や「四角」と呼ばれる。 |
榎木津 礼二郎 (えのきづ れいじろう) | 日光榎木津ホテルオーナーの弟で、薔薇十字探偵社の探偵長。 人形のように整った顔立ちで、風貌が日本人離れしている。 美男子だが、変り者で性格に難がある。 ほかの人には見えない「何か」が映像で見えるらしい。 視えた情報を活用して難事件を解決する。 (時に混乱を巻き起こすこともある) 騒がしいうえに口が悪いため、周囲を困惑させることが多い。 |
益田 龍一 (ますだ りゅういち) | 薔薇十字探偵社に勤務している探偵見習。 以前は神奈川で刑事をしていた。 話し方が軽薄で、おしゃべり。余計なことを話し過ぎてしまうタイプ。 薔薇十字探偵社では、人探しなど一般的な探偵業務を担当する。 |
『鵼の碑』で登場する人物
久住 加壽夫 (くずみ かずお) | 劇団「月晃」の座付き作家として戯曲を書いている。 劇団のパトロンが斡旋してくれたホテルに滞在中。 パトロンからは、能楽をモチーフにした戯曲を書くように命じられている。 ホテルのメイドから「人を殺した」と打ち明けられ、事件に巻き込まれる。 |
御厨 冨美 (みくりや ふみ) | 雑司ヶ谷にある調剤薬局の薬剤師。 調剤薬局の経営者が失踪したため、薔薇十字探偵社に捜索を依頼する。 |
寒川 秀巳 (さむかわ ひでみ) | 寒川薬局の経営者であり、御厨の雇い主。 御厨のことを大切に思っている。 植物学者だった父親は、20年前に調査団として日光に派遣され事故死する。 父の死に不審な点を感じて日光に向かうが、その後行方不明になる。 |
桜田 登和子 (さくらだ とわこ) | 日光榎木津ホテルに勤めているメイドで、久住の部屋の担当者。 「十数年前に父親を殺害してしまった」と久住に打ち明ける。 その後、ホテルを欠勤する。 |
築山 公宣 (つきやま こうせん) | 輪王寺に招請されて、文書の整理を行っている。 僧籍はあるが、僧侶ではない。 中禅寺と、大学の後輩である仁礼に依頼し、3人で整理作業を行っている。 |
緑川 佳乃 (みどりかわ かの) | 大学で、組織診断の病理学者をしている。 関口や京極堂とは、旧知の仲だが今回の事件で久しぶりに再会した。 日光のある村で大叔父が診療所を営んでいたが、亡くなった。 その後片付けのために日光へやってきた。 大叔父がなぜ、この地で診療所をやっていたのかを探っている。 |
笹村 市雄 (ささむら いちお) | 腕の良い仏師で、日光榎木津ホテルの飾りなどを手掛ける。 背中に梵字が入った個性的な衣装を身に着けている。 妹の倫子は、市雄の紹介でホテルのメイドとして働く。 妹の同僚である登和子の自殺を防ぐ。 |
『鵼の碑』の要約・あらすじ(ネタバレなし)
戯曲を執筆中の劇作家、久住 加壽夫(くずみ かずお)は、日光で小説家の関口 巽と出会った。
久住は出会ったばかりの関口に、不穏な話を打ち明ける。
ホテルのメイドに「昔、自分の父を殺した」告白されたため、怖くて逃げてきたのだ……と。
一方、東京の薔薇十字探偵社には、依頼人として御厨 冨美(みくりや ふみ)がやってくる。
冨美は「勤め先である寒川薬局の経営者が失踪したため、捜索して欲しい」と依頼する。
寒川は、父が転落死した事件の真相を調べるために日光へ行き、その後失踪したらしい。
また寒川は、失踪の直前に「碑が燃えている」と謎の言葉を残していたのだとか。
刑事の木場修太郎は、退職した先輩刑事の長門が経験した未解決事件について聞かされる。
他殺された3人の遺体が上野公園から忽然と姿を消す、という難事件が過去にあった。
その事件は結局、死体が見つからず未解決のまま。そのため長門は、ずっと忘れられずにいたようだ。
それぞれが謎を追いかけ日光に集結する。
別々の事件だったはずだが、これらの謎は結びつくのか。過去にこの地では、一体何が起きたのか。
そして役者が日光の山中に揃い、過去の事件が暴かれていく……
まるで憑き物落としをするかのように、謎を解いていくのは中禅寺である。
戦前、戦中、戦後、日光の山中で、いったい何が行われていたのかー
それは嘘か真実かー
壮大な歴史が絡む、重厚なロングミステリー小説。
あなたもぜひ味わってみませんか。
『鵼の碑』読後の感想
鵼の碑の単行本を手にした時、まずはサイズ感にビックリしました。
なんと厚さが7㎝、重さは1.2㎏もあるのです。持ったまま読むと、手首に若干の負担を感じるかもしれません。
(今から買うならノベルスの方がおすすめです。単行本は収集用、保存用として買うには◎)
冒頭から中盤にかけて、お馴染みのメンバーが次々と箱根に揃う様子に思わず興奮してしまいます。
主要メンバーが序盤から揃う特別感に、17年ぶりということもありグッときてしまいました。
「これこれ、この感じ!やっぱり京極夏彦といえば百鬼夜行シリーズだよな」と再確認します。
重苦しいテーマでも沈んだ気持ちにならないのは、キャラクターの性格と仲のよさが影響しているのかもしれません。
ちなみに『鵼の碑』は、百鬼夜行シリーズのなかでは抜群に読みやすいと感じました。
文字数も内容もボリュームたっぷりですが、ぐいぐいと引き込まれ、読み進められます。
主要登場人物の紹介がわかりやすく、百鬼夜行シリーズの入門書としてもよいかもしれません。
百鬼夜行シリーズを知らない若い世代や、これまで未読だった人は本書から読み始めるのもおすすめです。
『鵼の碑』で百鬼夜行シリーズの魅力に気づいたら、1作目から順番に読むもよし、気になる作品から読むのもよし。
百鬼夜行シリーズは、ハマる人にはドハマりするため、まずは軽い気持ちで手を伸ばして欲しいと思います。
いきなり買うのが不安な場合は、図書館で借りるのもおすすめですよ。
もしハマってしまったなら、百鬼夜行シリーズを読む前には戻れないかもしれません。
そのくらい、百鬼夜行前と百鬼夜行後に見える世界は違う……かもしれないのです(個人的な感想)。
『鵼の碑』を読んで驚いたのが、登場人物がこれほど多いのに、読者を置いてけぼりにしないことでした。
いくつかの事件が交互に描かれる形式のため、登場人物がとにかく多いのです。
にもかかわらず、読んでいて訳がわからなくならないのは見事だと感じます。
ボリュームがある小説ですが、脱落者はあまり出ないのではないでしょうか。
登場人物それぞれが持つ謎と事件の背景を丁寧に描写しているため、小説に入り込みやすい点も『鵼の碑』の魅力です。
まったく別の事象だったはずなのに、気づけばすべてが円の中心に集結しているような。
そんな不思議な感覚を味わえます。(それこそが、本作のカギなのですが……)
また、これまでの百鬼夜行シリーズでは、物々しい憑き物落としや、壮大な謎解きが醍醐味でしたが『鵼の碑』は少し様相が違います。
いくつもの謎がスマートに収束し、しっとりと余韻が残るラストシーン。
とはいえ小さくまとまるのではなく、静かに幕引きがされていき、いつの間にか物語が終わっているという不思議な感覚を味わえました。
私見ですが、1読目よりも2読目のほうが味わい深く感じたため、時間をおいて何度も繰り返し楽しめる小説だと思います。
『鵼の碑』で印象に残ったセリフ
ーみんな。
なんとかやっている。
もう会えないけれどー。
生きていれば会えないこともないよ。
鵼の碑 1273ページ
物語の最後、緑川 佳乃による独白のシーンです。
このセリフこそが、この物語のすべてだと感じました。
まさに、未来への希望が感じられるシーン。
百鬼夜行シリーズが17年の時を経て進化したことを、もっとも感じられるのが、このセリフでしょう。
小説内のキャラクターたちは、きっとまたいつか再会できる。
そして、読者である私達もまた、次巻で彼らに再会できるはず。
希望を持って、その日を待ちたいと思います。
『鵼の碑』のまとめ
17年間もの沈黙を破って出版された『鵼の碑』。
待ちに待ったファンが多かったことでしょう。
発売日が近づくにつれ、SNSでも連日話題になっていました。
私自身も高校生のときに百鬼夜行シリーズと出会い、読みながら成長しました。
百鬼夜行シリーズとの出会いは、私が読書好きになったきっかけのひとつです。
もし読んでいなければ読書好きにはならなかったかもしれないですし、図書館で働くこともなかったでしょう。
そう考えると、京極夏彦さんと百鬼夜行シリーズからは、大きな影響を受けたといえるかもしれません。
『鵼の碑』は17年ぶりの新刊ということで、百鬼夜行シリーズを知らない世代も増えていると考えられます。
本作をきっかけにして、かつての私のように新たに百鬼夜行シリーズのファンになる人が増えてくれたら嬉しいと願います。
昭和初期のノスタルジーな雰囲気に浸れるため、大人世代にもおすすめの1冊です!
『鵼の碑』の次に読んで欲しいおすすめ本
『鵼の碑』で初めて百鬼夜行シリーズを読んだよ。
読み応え抜群だし、キャラクターたちの魅力にハマりそう。
次作も楽しみだけど、まずは1番最初からシリーズを通して読んでみようかな。
次作として『幽谷響の家(やまびこのいえ)』の出版が予定されているらしく、待ち遠しいですね!!
それまでに、過去の百鬼夜行シリーズの作品でおさらいしておきましょう。
百鬼夜行シリーズの始まりとなった『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』あたりから読み始めるのがおすすめ。
私がシリーズで一番好きなのは『絡新婦の理』かな。木場が活躍する様子を見たい方には、とくにおすすめです!